この時期の朝は早い・・4時過ぎには空が白み始める為・・涼しい早朝に畑仕事を終わらせるのがセオリーとなるのだが・・いかんせん慣れないのだ・・夕方も19時過ぎまで明るいので活動時間がやたら長く・・気づくと朝になっている始末・・この時期の最優先事項は畑と草刈り・・待ったなしで襲い掛かる無限ループの波にもまれながら眠い目をこすりこすり身体を起こす・・疲れている・・起きた瞬間に疲れているのだ・・気怠い身体をよろめかせながら階下へと降りる・・屈託のないアクビ顔の女将に挨拶・・
使用人「・・おはようございます~・・」
女将「・・ふぁぁぁ~あ・・なんかやけに早いじゃないのさぁ・・」
薄暗い廊下を歩きトイレへと向かうと・・前方に何やら得体のしれない物体が転がっている・・遠目に見えるフォルムはウンチ・・しかも女将のサイズではない・・イタチや狸のウンチの様な細さのサイズ感に・・ん?・・えぇ?・・ナニコレ?・・と近づき凝視する・・無残にも薄暗い廊下に横たわる謎の物体の正体は・・ドジョウだった・・
使用人「・・えぇ?!・・なっ・・なんでこんなところに!・・はっ!?・・」
何食わぬ顔でついてくる女将を横目にトイレの方を見ると・・ドアが開いていた・・やってしまった・・ここに・・ドジョウ君が転がっているという事は・・まさか全滅・・水槽ごと破壊されたのだろうかと慌てて駆け込む・・どうやら大洪水は免れたようだ・・何事もなかったかのように佇む水槽と金魚達・・きょとんとした女将の表情で全てをさとる・・エサやりをしやすいようにかどうかは解らないが・・水槽のフタのコーナーに・・わざわざ開けなくてもエサ投入できるようなスキマがあるのだ・・しかも・・今回の水替えで水位は満水に近かった為・・ドジョウ君が飛び出る条件は揃っていたようだ・・つがいでウチに来たドジョウ君・・実は脱走の常習犯で・・以前にも水槽の外に横たわる干物と化した嫁の骸を回収した事があった・・その数日後・・あとを追う様に飛び出ていたダンナ・・幸い発見が早かったのか大事に至らずに生きていた・・そう・・ドジョウの生命力は半端ないのだ・・水など無くても半日くらいは平気そうなのだ・・発見したときは・・すぐに後を追ったか・・と・・骸を回収しようとすると・・カピカピに乾いたカラダをくねらせて見せた・・水槽へ戻すと・・何事もなかったかのように泳ぎだすのだから驚きである・・だが・・今回は横槍が入ってしまった・・ドアが開いていたのだ・・好奇心を抑えられるわけがない・・ここからは想像だが・・夜な夜な探検がてら物色に向かう女将・・金魚の餌でも拾えればラッキーおやつ・・ところが・・見た事の無いヌルヌルのニョロニョロがクネクネしていたのだろう・・床で・・これはいいヒマつぶしになるとソフトな甘噛みで廊下へ移動・・散々ペロペロ・・イジイジされたあげくにドジョウ君訳も分からずに召天・・見てもいないのにビジョンが浮かんでくるくらいだ・・傷もない綺麗な骸に女将のソフトタッチの愛を感じた・・支配人だったら・・骸はすでに消化されていたかもしれない・・謎の失踪事件にウソだろゥと・・さぞかし首をひねった事だろう・・
女将「・・あの子・・急に動かなくなっちゃったのよぉ・・」
使用人「・・いじりすぎですね・・」
支配人「・・にゃんだよぉ~・・オイラもドジョウと遊びたかったにゃ・・」
使用人「・・食べちゃう食べちゃう・・」
食欲旺盛で金魚達をオラオラと掻き分けて貪り食う様は・・まるで水槽界のヤクザの様なやんちゃぶりで楽しませてくれた・・ご冥福をお祈りする・・
女将「・・なんか・・結局ぅぅ・・アタイがトドメぇ?・・さしたみたいになってるけどさぁ・・」
支配人「・・おまえにゃヨシダぁ・・飛び出にゃいようにしてれば・・防げた事故にゃ・・トイレのドアもにゃ・・原因はオマエにゃ!・・」
使用人「・・まともな事ぉ・・言わんといて・・」