支配人「・・ぅぉ~い・・ヨシダぁ・・入れてくれにゃ・・」
使用人「・・・・ぁぁぁはいぃぃ・・どうぞぉぉぉ・・ぅぅうぅ・・さむぃぃ・・」
窓から差し込む満月の月明り・・香坂富士の山並みに沿う様にベストな軌道で進むお月様・・まるで山全体がサーチライトで照らされているようだ・・そんな満月の夜のパトロール帰りの支配人・・飯を済ませ・・そそくさとベッドに潜り込んでくる・・冷たい・・脇の下に丸まりうずくまる支配人の身体が冷えている・・
使用人「・・ひぇぇぇぇぇ・・キンキンじゃないですかぁぁぁぁ・・」
支配人「・・そうにゃ・・パトロールも楽じゃにゃいにゃ・・はぁ~さぶっ・・」
冬が早い・・今年は・・異様に寒くなるのが速い気がする・・感覚的には12月になろうかというような寒さだ・・なんとか真冬の氷点下対策の一環として・・少しでも一軍の防寒着達は温存したいというセコイ我慢戦を毎年繰り広げているが・・今年はもう・・すでに一軍に手が伸びそうな勢いだ・・11月からコレを着るわけには行かないと・・伸ばす右手を止める左手・・先行き不安な今年の冬将軍の斥候部隊といったところか・・
女将「・・ふん・・基本ね・・世の中に遠慮なんていらないわ・・」
使用人「・・女将ぃ・・アホになりますよぉぉ・・そんな顔から直にぃ・・」
今年も開幕・・ストーブ前の陣取り合戦・・11月初めでこのありさま・・寒さへの耐性が当宿随一の秋田犬が聞いて呆れます・・
女将「・・それとこれとはってやつよぉ・・勘違いしないでほしいわね・・べつにぃ・・寒いのが好きな訳じゃないわぁ・・ただ・・アナタ達がくたばるような寒波が来てもアタイは平気ってだけ・・」
支配人「・・にゃんでエバってんねんっ!・・はらたっぅ・・」
使用人「・・それにしても早いですねぇ・・」
気を付けて予定を確認しておかないと・・あっと言う間に年の瀬まで消化してしまいそうな11月にビビりながら・・お世話になった畑を片付け始める・・薩摩芋に続き里芋の収穫も無事に終え・・守る対象がなくなり・・いよいよお役御免となった電気柵を撤去する・・仕掛けてからというもの・・常に頭の片隅から離れない心配事として脳裏を悩ませてきた・・電圧が下がっていないか・・雑草が干渉していないかと組み足されるルーティンの鎖が解かれてゆくようで・・嬉しいような寂しいような感覚に陥る・・どうすれば・・どうやれば正解なのかが明確に攻略できた電気柵・・手応えという名の報酬と共に舌鼓を打つ採れたての作物達・・この世に労せずに手に入れられるものなど無いと解かりやすく教えてくれる電気柵の攻防戦から解放され・・鮮やかなスピードで色付く紅葉の山並みを眺めた・・