夏本番を迎え・・香坂自慢の太陽光は容赦のない日差しを長時間浴びせてくる・・だが・・あきらかに日の出はおくれ・・日の入りは早まりだしている・・このあたりで折り返しといったところか‥とはいえ・・19時過ぎまで外作業ができるので夕散歩は早めの時間帯に済ませ・・ケツの時間帯をみっちり作業に充てることが多い・・まぁほぼほぼ草刈りなのだが・・散歩を後回しにしておくと・・女将の・・まだかい?・・まだなのかい?・・まだかよ?・・どうなってんだよ?・・というプレッシャー光線が刺さりまくり・・作業に没頭できない・・お日様が西の閼伽流山に隠れてからの方が涼しいのでは?・・と勝手に気を廻してしまうが・・女将には要らん世話の様だ・・陽射しがなくなり作業効率の上がる17時過ぎから・・スッと急に身体が楽になるからだ・・それでも早く行きたい女将に合わせ16時位から散歩に出かける・・暑い・・暑い・・早く日影に入りたい・・アスファルトに最も近い女将はもっと暑いはず・・少ない日影を選びながらスローなペースのふたり・・宿の裏の道を一周廻る短いコース・・上り坂が終われば・・あとは下るだけのウチのスタンダートコース・・下りに入り・・さえぎるものはなくなり・・ここから宿まで日影はいっさいなくなるデスロード・・その下り・・半分くらいまで来たところで前方の異変に気付くわたし・・
使用人「・・あちぃ~~~・・はぁ~・・はっ!・・えっ!?・・うそでしょ・・?・・」
前方・・15メートルといったところか・・アスファルトの上にいらっしゃるではないか・・女将は?・・さいわいクンクン星人に忙しい様で気付いていない・・一瞬・・双方動きを止める・・やばい・・近い・・と思った刹那・・面倒くさそうに山側のブッシュへと身を隠す月の輪熊・・そのしなやかなボディに心を奪われながら・・さて・・どうしたものかと・・グルグルと思考をめぐらす・・
使用人「・・どっ・・どうしよ・・いっ・・行くかぁ?・・戻るかぁ?・・」
女将「・・はぁ?・・なんなのさ・・?・・行くわよ・・」
プランA・・クマさんが入ったところの前を通過する・・危険度S・・身を隠したが・・まだブッシュに潜んでいる可能性無限大!・・前を通り過ぎようとした瞬間に・・ガオーッ・・これは危険すぎる・・プランB・・今来た道を戻る・・危険度C・・背を向けてはいけないと言われるクマさんだが・・すでに相手が身を交わしているので反対方向にそっと戻るのがセオリー・・あえて藪蛇をつつくような事をする必要などないのだ・・
使用人「・・もっ・・戻りましょう・・女将ぃ・・さっ・・ねっ・・戻りましょうっ!・・」
女将「・・はぁ?・・やだよ・・なんでそんなつまんない事させんだいっ?・・いくよっ・・」
使用人「・・女将お願いいたします・・戻りましょうっ!・・」
女将「・・いやだって・・言ってんだろうっ!・・」
無理もない・・気づいてないのだから・・気配・・臭い・・も鈍るほどの暑さの中・・草丈は伸び犬の視野では前方に何がいたのかなど理解できない・・理解できないがゆえに折れない・・訳も分からず引き返そうとする私と引っ張り相撲が始まった次の瞬間・・まさかの首輪が引っこ抜ける・・
女将「・・ふん・・バ~カ・・だれが戻るかよっ!・・」
最悪のプランC発動・・危険度無限大・・悔しかったら捕まえてみなとばかりにクマの入り口前を通り過ぎる女将・・もう・・行くしかない・・もし女将がクマの存在に気付けば・・間違いなく戦闘モードのスイッチが入る・・そうなる前に・・ここを一気に駆け抜ける・・しかない・・下り坂を訳の分からない奇声を上げ全力で駆け抜ける・・と同時に女将も私から逃げはじめクマさんから遠ざかる事に成功・・どうやら最悪の事態は免れた・・さて・・ここからどう捕まえるか・・このモードの女将は中々手ごわいのだ・・クマの危機に比べれば焦りなどないが・・村の方へ下らせないためにウマく廻りこむ・・すると・・ここでも暑さが幸いしたのか・・廻りこんだ私を見て急にシラケる女将・・
女将「・・もういい・・暑い・・めんどくさい・・」
捕り物帖もあっけなく終わり・・女将がクマに気付かなかったことに心底安堵する・・気づいていたら・・間違いなく追跡していたことだろう・・時間にして4~5分の出来事のように感じたが・・汗だくの身体を拭いながら深呼吸をすると・・なぜか鳥肌が立つほどの冷たい汗が背筋を流れていった・・
使用人「・・皆様・・ただいま香坂村は厳戒態勢でございます・・16時過ぎに道でバッタリ出会うようであれば・・いつどこでバッタリでも何ら不思議ではございません・・お散歩は宿の周りのみに・・念のため鈴を貸し出しておりますのでお申し付けくださいませ・・」